PDCAのPに根拠がなければ結局はKKDと同じ
- ATLATL
- 2019年9月17日
- 読了時間: 7分

「KKDからPDCAへ」と言われていた時代がありました
20年ぐらい前だったと思いますが、PDCAという言葉が経営管理に普及しました。当初はPDS(Plan-Do-See)と言われていましたが、See(見る)だけじゃなくて、改善のための行動(Action)が必要だろう、ということでPDCAの方が定着しました。
当時、私がまだ若手コンサルタントだった頃、クライアントの方が「うちはずっとKKDでやってきたからなぁ。いや、KKDRか。」とおっしゃっていました。「KKDとは何ですか?」と聞くと、
「勘(Kan)と経験(Keiken)と度胸(Dokyou)だよ。Rは霊感(笑)」*
と教えてくださいました。勘と経験と度胸と霊感で事業を回してきたが、これからは客観的な根拠に基づいて計画を立て、実績との差異を把握して、差異を埋めるための行動を起こす管理手法に変えたい、というお話でした。
* KKDには「根性、根性、ど根性」という説もあります。
PDCAのPには2種類ある
PDCAを回そう!となったら、最初に取り掛かるのがP(Plan:計画)を立てることです。ここで立てなければならない計画には2種類あります。
1つめは成果に関する計画で、「目標」と呼ばれることもあります。売上とか利益などの業績目標が代表的なもので、通常は中間的な成果指標(KPI)に分解されていきます。
2つめは、行動に関する計画で、例えば営業関係でしたら訪問件数や見積提出件数、販促なら広告出稿量やキャンペーン数、商品開発なら発売した新商品数などがあります。現場コテコテの行動計画には「毎日のトイレ掃除回数」といったものもありますが、これも立派な行動計画です。
成果と行動の大きな違いは、行動の主語です。成果の主語は自分以外、行動の主語は自分になります。例えば、売上はお客様に購入していただかなければ立ちませんから、購入の主語は「お客様」、つまり自分以外ですね。営業訪問は(アポを受け入れてもらう必要はありますが)基本的には自分起点で訪問することですから、主語は自分になります。
つまり、自分でコントロールできるものが行動、コントロールできないものが成果と言えます。
PDCAのPを立てる場合には、上記の2種類のPを作らなければなりません。成果(業績目標)としていくらの売り上げを立てるのか、そしてそのための行動として何をいつどのぐらい行うのか、といった2種類の計画です。
ここで子どものように澄んだ心の持ち主なら、こんな素朴な疑問が湧いてくるはずです。
「計画ってどうやって立てるの?」
計画をKKDで立ててませんか?
業績目標は戦略から導かれるもので、利益が最大となる市場地位を決定することが必要になります。自社にとってのターゲット市場の範囲はどこまでか、自社はその市場の中でどういう地位を目指しているのか、その地位を獲得すると何ができるようになるのか、といった分析を行なった上で決定するものです。
しかし、弊社が過去見てきた実例では、成果に関する計画(業績目標)の決め方は2種類ありました。
1つ目が「天の声」です。「社長が中期経営計画で3年後の売上目標◯◯億円とブチ上げちゃったから、2年目の今年はその8割ぐらいは到達していないと目標達成の現実味がない」というような決め方です。「天」は戦略を持っていると思われますが、それが社内に共有され理解されていないと、「なんとなく8割」という決め方になってしまいます。
2つ目が「前年比◯%増」です。この前年比の数値の根拠は大抵「今年の市場規模は前年比◯%増と予測されている」という市場レポートです。残念なことに、この場合の市場の範囲は調査会社が決めたものであって、その企業が決めたものではないことがほとんどです。
いずれにしても業績目標に戦略的な根拠が薄く、「目標がないとどれぐらい頑張れば良いか分からないから、無いよりはマシ」というレベルになってしまっている場合が多いのが現状です(当社調べ)。
次に、行動の計画ですが、当然ながら行動計画はその計画を達成した暁には成果の計画(業績目標)が達成できることが前提となっていなければなりません。
以前ご支援させていただいたクライアントでは、経営管理の会議資料として、それぞれの行動計画の達成度を信号機の色で表現していました。報告では全タスクが青信号でしたが、肝心の成果(業績)が赤信号という笑えない出来事がありましたが、これは何をすれば成果が出るかという分析をせずに行動を切り出したことが原因でした。
実際のところ、行動計画は「昨年度は◯◯というキャンペーンを3回実施したので、今年は4回にします」というような前年踏襲型の項目が8割を占めるといったケースが多いのではないでしょうか。ここで問題は、前年を踏襲することではなく、実施する行動が売上にどれぐらい効果があるのかを分からないまま行動計画を決めてしまうことです。
「KKDからPDCAへ」という掛け声で始まったPDCAですが、肝心のPをKKDで決めてしまっていては、DCAをちゃんとやっていたとしても最も重要な成果のPを達成できない、というお粗末なことになってしまいます。
では、どうやってPを立てるべきなのか?
成果(業績目標)については、計画を立てる前に、目指すべき市場地位の検討が必要です。その検討内容について、弊社では以下のプロセスをご提案しています。
ターゲット市場およびその周辺市場を増減させる影響要因の特定
その影響要因の今後の変化予測
ターゲット市場およびその周辺における機会(変化)
その市場でリーダーシップを取れるようになるために必要な市場シェア
1.の影響要因の特定は、影響要因となりそうなマクロ指標との因果関係を統計的に分析し、決定係数が高いものを選択します。
そして、その要因についての予測ができるのであればその予測を代入し、予測ができないのであれば、さらに影響要因の影響要因を特定して、それらの傾向から予測します。
3は変化を機会と捉えること、4は市場でリーダーシップをとるとはどういうことか、という検討を行い、目標を決めていきます。(詳細はいずれこのブログで書きたいと思います)
次が行動計画の立案ですが、いきなり行動計画を作り始めるのではなく、行動と成果との関係が分析できていなければなりません。
行動と成果の関係分析とは、行動をした時の成果としなかった時の成果を比較するということです。ですから、行動している時のデータしかない場合は比較ができません。また、AとBの両方を同時に行ったデータでは、AとBのどちらがどれだけ成果に影響しているのか分からなくなります。
そのため、分析の前に「ある行動をした場合としていない場合の成果」を括り出せるようにデータを集めておくことが必要になってきます。分析の前に分析のための調査が必要ということになりますが、わざわざ分析のための調査を別で実施するのは無駄ですので、行動計画のなかに「あとで効果を分析できるように他の行動とは時期をずらして実施する」といった事後の分析の観点を折り込んでおく必要があります。
分析のためのデータが揃ったら行動→成果の関係分析を実施します。どれぐらいの行動(インプット)を行ったら、どのぐらいの成果(アウトプット)が出るのかを数式で表せるようにします。なお、いわゆる機械学習はインプット→アウトプットの関係を数式で表現できない場合が多いので、アトラトルではこの関係分析に機械学習を用いないことが多いです。
そして、その数式が作れたら、今度は成果(アウトプット)から行動(インプット)を導かなければなりません。もちろん売上や利益といった成果(業績)は可能な限り最大化したいところですが、通常は人員の数、予算額、時間といった制約が存在します。そこで、その制約の範囲内で目標を達成できるようにするための行動のシミュレーションを行わなければなりません。
なお、どれだけ行動しても成果の計画を達成できない場合は、制約を引き上げるか(人員や予算の増加など)、目標を下げることも考えないといけません。

ここまで分析とシミュレーションを行えば、理論的には「この行動を実施すればこの成果が得られる」と言うことができます。自分がこれまで通ってきた道が目的地への最短経路だとは限りません。最短経路で目的地に到達したければ、ナビゲーションシステムのように成果(目的地)から逆算して行動計画を立てる必要があります。
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